北太平洋でのアカウミガメ回遊経路調査を行います
謎に包まれたアカウミガメの回遊経路
アカウミガメは、世界の温帯、熱帯域に分布していますが、北太平洋における産卵場は黒潮の影響のある日本沿岸域にほぼ限られています。日本の海岸で孵化したアカウミガメは太平洋を渡ってカリフォルニア半島沖まで回遊することが知られていましたが、どのような経路をたどって回遊するかは不明でした。
名古屋港水族館では、2003年から2013年までアメリカ海洋大気局(以下、NOAA)等と共同で、計165個体のアカウミガメの甲羅に送信機を付けて放流し、人工衛星で得られる位置情報からその行跡を追跡するアカウミガメ回遊経路調査を実施しました。(図1)
図1
カリフォルニア半島沖ではアカウミガメの未成熟個体が多数発見されているにもかかわらず、前述の調査では、カリフォルニア半島沖まで到達した個体はごく一部でしかないため、この時の調査結果からはカリフォルニア沖における未成熟個体の分布に関する説明がつきませんでした。
その後、追跡したアカウミガメの行跡と海洋環境のデータを詳細に分析した結果、北太平洋中部の東端にいるアカウミガメは、海水温が暖かい条件の下であれば(エルニーニョの年)、北米西海岸に到達するという新たな仮説が立てられました。
この仮説を検証するために、ナショナルジオグラフィックとゴードン・アンド・ベティ・ムーア財団からの支援のもと、日本、ニュージーランド、ハワイ、カリフォルニア、メキシコの研究者で国際的な調査事業を行います。
調査計画
調査名
STRETCH(Sea Turtle Research Experiment on the Thermal Corridor Hypothesis)
調査期間
2023年4月から5年間
調査方法
北緯25度から30度、西経135度以東(合衆国の排他的経済水域を除く)のバハカリフォルニア沖海域において、2歳前後のアカウミガメ25頭に送信機を取り付けて毎年放流し、追跡します。
調査の意義
■ 気候変動がアカウミガメに与える影響を分析するための重要なデータとなります。
■ 送信機から発信されるアカウミガメの位置情報を地図にプロットすることにより、アカウミガメの現在地をリアルタイムで表示することが可能なため、気候変動や海洋を回遊する動物への理解を深めるための教育的な情報提供を行うことができます。
■ 絶滅の危機に瀕しているアカウミガメの回遊生態を解明することにより、効果的な保護活動に役立てることが可能になります。
名古屋港水族館は、前述のとおり過去にも放流調査を実施しており、日本で唯一有するその実績とノウハウを基に今回の共同研究参加の打診があり、調査メンバーに加わりました。