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水族館の活動 ACTION

2024.03.26 種の保存

動物福祉への取り組み

動物福祉とは

動物福祉とは、「飼育および展示における個々の動物の身体的および心理的状態」のことです(公益社団法人日本動物園水族館協会・動物福祉規定の定義より)。少し難しいですが、動物福祉が良いということは動物が心身ともに健全な状態であるということで、悪いということは動物が不幸な状態であるということです。動物福祉とは、人が動物に何かをしてあげることではなく、動物の状態を指す言葉であることがポイントです。

動物福祉と動物愛護

動物福祉と似たような言葉に動物愛護という言葉があります。動物愛護は、動物を愛したり保護したりという人間側の気持ちや態度のことです。動物福祉は動物の心身の状態、つまり動物側の状況を指すので、「動物愛護の精神をもって動物に接し、動物福祉が高まるように動物を飼育する。」というように言葉を使い分けることができます。

動物福祉を測る

動物福祉が良いとか悪いとかはどのように判断するのでしょうか。動物園や水族館では動物福祉を栄養、環境、健康、行動、精神状態の5つに分けて考えています。それぞれについて餌の量や質、体重、水温や水質、血液検査の結果、皮膚の状態、社会行動の種類や数、ストレスホルモンの濃度などをはじめ、多くの項目について客観的な数字で記録を残すことができます。そしてこれらの記録を元に、“この動物”と“あの動物”、“昨年の状態”と“今年の状態”などを比較することができ、改善するべき点もはっきりと見えてきます。

動物福祉は最期まで

動物福祉は動物が何らかの原因で死亡してしまうその直前まで考える必要があります。例えば高齢や重病の動物で長く生きられないことが明らかで、かつその動物が多大な苦痛を感じている場合などには、つまり動物福祉が著しく損なわれて回復の見込みがない場合には、その苦痛を取り除くために安楽殺という選択肢も考えなければなりません。

動物福祉という言葉には、もともとは人間の社会福祉と同じく、困難な状況を支援するような意味合いが強く含まれていました。現在では、特に動物園や水族館で動物福祉を考える際には、動物たちのより良い状態を重要視して考えるようになっています。

名古屋港水族館のとりくみ

名古屋港水族館の動物飼育について、動物福祉の観点からいくつかご紹介しましょう。

栄養面でのとりくみ

名古屋港水族館には3つの調餌室と極地ペンギン用の調餌エリアがあります。調餌室は毎日洗浄・消毒され、夜間は調餌室全体が紫外線で殺菌されています。餌は動物種ごとに適した給餌方法が工夫されており、多くの動物種で個体毎に給餌量や給与カロリーが記録されています。鯨類、ペンギン類、ウミガメ類については定期的に体重測定を行い、給餌量が適切であるか確認を行っています。

イルカの餌を準備する様子

イルカの餌を準備する様子

餌の質と量は厳密に管理しています

餌の質と量は厳密に管理しています

ペンギンのひなの体重測定

ペンギンのひなの体重測定

環境面での取り組み

名古屋港水族館では動物たちの暮らす環境に合わせて水温(気温)を動物種ごとに適した温度に調節しています。水温が一番低いのはナンキョクオキアミの0.5度で、一番高いのはサンゴ礁大水槽の25度です。莫大な水量でシャチやイルカを飼育する北館のプールでも夏は冷却、冬は加温して水温を調節しています。南極に住む種類の徳地ペンギンについては気温も氷点下に調節して飼育しています。高緯度地域では日長(昼と夜の長さ)が日本と大きく異なります。北極に住むベルーガや南極に住む極地ペンギン、ナンキョクオキアミなどの飼育環境では照明の時間を生息地の環境に合わせています。冬の夕方のベルーガ水槽や、夏の極地ペンギン水槽は暗くて見えにくいかもしれませんが、極域に住む動物の生活リズムを整えるために日長はとても重要な要素なのです。

極地ペンギン水槽の照明は南極の昭和基地の日長を参考にしています

健康面での取り組み

名古屋港水族館には飼育動物の健康管理を担当する獣医師が勤務しています。鯨類では毎月の血液検査の他、糞、呼気や胃液の検査を定期的に行っています。これらの検査はトレーナーが動物に教えた受診動作を利用して、動物をおさえつけることなく実施しています。例えばイルカの尾びれから採血をする際には、イルカは獣医師に尾びれを差し出し、採血が終わるまでおとなしくじっとしていることができます。X線検査、超音波(エコー)検査、サーモグラフィー検査など様々な検査で受診動作を用いて動物たちの健康状態を確認しています。

ベルーガの尾びれから採血をする獣医師

ベルーガの尾びれから採血をする獣医師

獣医師がイルカの血液を検査している様子

獣医師がイルカの血液を検査している様子

行動面での取り組み

名古屋港水族館の展示の中には、動物たちの自然な行動を引き出す工夫が隠されています。ベルーガは一年に一度脱皮をするのですが、そのときにはプールの中の擬岩で体をこすっています。ふだんは氷がしきつめられた極地ペンギン水槽には、繁殖シーズンには石が運び込まれます。石はペンギンが巣材として利用します。ウミガメ回遊水槽に隣接した砂浜では、初夏の夜になるとウミガメが上陸して実際に産卵します。アマモ場(海草)を再現した水槽では、実際にアマモが育っています。魚たちの排せつ物もアマモの肥料になっています。アミメハギという魚は夜間はアマモにかじりついて、流されないように寝ています。

砂浜に上陸して産卵するアカウミガメ

砂浜に上陸して産卵するアカウミガメ

求愛したり闘争したりと毎日がにぎやかなサンゴ礁の魚たち

求愛したり闘争したりと毎日がにぎやかなサンゴ礁の魚たち

安心できる暮らし

動物福祉では、動物から苦痛を取り除くだけでなく、安心して暮らせる環境づくりが大切です。特に複雑な精神構造をもつ哺乳類(名古屋港水族館では鯨類)では、動物たちが退屈したり欲求不満がたまったりしないよう、好奇心を満たすなど、活力ある生活が送れるような工夫も必要になります。動物同士の相性を考慮しつつ、仲間同士で社会性を刺激するような生活ができるようにしています。鯨類では、トレーナーとの信頼関係も重要な要素です。信頼できるトレーナーと取り組むトレーニングは、動物に日々のチャレンジを提供することができます。

トレーナーとトレーニングに取り組むシャチ

トレーナーとトレーニングに取り組むシャチ

好奇心旺盛なイルカ達

好奇心旺盛なイルカ達

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