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スタッフコラム COLUMN

2023.07.04 カメ

アカウミガメの旅立ち

新着情報で6月15日にお知らせいたしました「北太平洋でのアカウミガメ回遊経路調査」で放流するアカウミガメたちが7月2日に日本から放流地点に向けて出発しました。

25頭のアカウミガメの背中には小型の衛星送信機が取り付けられています。ガラスクロスとレジン(樹脂)で背中に送信機を取り付けて、防汚塗料を塗ってあるため、まるで日の丸を背負っているようにも見えます。意識的に日の丸に見えるように塗ったかどうかは別として、私たちの期待を背負っているのは間違いない!

放流準備のさなかに、ネットでは“ウミガメの放流会、やめて”という記事が話題となっていました。準備のために毎晩遅く帰る私に、娘から「お父さん、批判されるんじゃないの?」と心配の声。タイトルだけ読むと、なかなかセンセーショナルですが、私たちが今回行う放流は、記事で書かれている放流とは全く別物です。
私たちが放流するアカウミガメは2歳まで健康に育てたアカウミガメ。ふ化したばかりの子ガメではありません。また放流場所もこの年齢のアカウミガメが実際に生息している場所を選んで放流します。
これまでの調査でも、こういった方法で野生に返したカメは、ほとんどの個体が1年以上生きていました。見たわけではありませんが、衛星で追跡している電波がそのことを教えてくれます。そこから先は? わかりません。電池の寿命か送信機が外れてしまうので、それ以上の追跡は難しいのです。

放流したカメが野生で一生を全うできるかどうかはわかりませんが、カメたちが送ってくれたデータは、ウミガメの保全に役立つことだけは間違いありません。
今回の調査では、アカウミガメたちが太平洋の真ん中からアメリカ大陸の西海岸にたどり着く道筋だけでなく、その条件を探ります。気候変動がアカウミガメたちにどんな影響を与えるのか、そんなことも解明されることを期待しています。
この調査は4か国の研究者のチームで行います。2003年から10年間アカウミガメの回遊経路の調査を行っていましたが、その時からの仲間たちが中心メンバーです。再集合して新たなチャレンジです。元アメリカの政府機関NOAAの職員、ジョージ バラーズさんも今回のプロジェクトの火付け役の一人、ウミガメに送信機を取り付けるために来日してくれました。

研究をしていない期間もお互い連絡を取り合っていました。ある時、ハワイに住むバラーズさんから、「日本の研究者がウミガメの皮膚の組織培養しているらしい。おまえ知っているか?けがをしたカメに使えるんじゃないか?クローンを作ることも将来は可能なんじゃないか?Great!!」と言ってきたこともありました。
実はその研究、東北大学、京都大学、国立環境研究所の研究者たちと名古屋港水族館との共同研究のことでした。希少野生動物の保全のためには生態、行動、生理などの研究も重要ですが、万が一の時のために「細胞」を残しておくことも大切です。そういった取り組みは、精子や卵子を液体窒素の中で凍結して残す「配偶子バンク」として日本の動物園水族館でも機能しています。名古屋港水族館でも3つの液体窒素のタンクの中でイルカの精子たちが静かに眠っています。

最近では「バイオバンク」と言って、遺伝子、組織、細胞などを保管していく事業に広がりつつあります。希少生物の保全のためには様々な角度からの研究が必要です。
ちなみに国立環境研究所では「生物多様性を守る “最後の砦”」として施設整備のためにクラウドファンディングを実施中です。サイトはこちら(※2023年8月20日に終了しました)。
上記ホームページでは、希少野生動物の「タイムカプセル化」について詳しく解説されています。興味のある方はぜひ。