海に沈むスナメリ
先日、水族館の近くの岸壁の下でスナメリが沈んでいるとの連絡がありました。
現場を確認しに行くと、沈んでいるスナメリを発見。どうやら近くで死んでしまい、沈んだようです。
スナメリは時間が経つと腸内にガスが溜まって浮いてくるので、このスナメリは死んでからまだ時間が経っていないと思われます。
野生の生き物の調査では、情報を入手する機会がひじょうに限られています。
今回のスナメリも死んでしまったことは残念ですが、体の中には未だ情報がたくさん詰まっています。
このスナメリから、名古屋港のスナメリの生活について何かわかるかもしれません。
そこで船で近くまで行き、潜ってこのスナメリを引き揚げることになりました。
(名古屋港管理組合の許可を得て行っています。)
この日は気温10度、水温12度と2月の寒い海…
入念に準備をして現場へ出発します。
いざ潜ってみるとスナメリがなかなか見つかりません…
「全然見つからない…本当にいるのか…?」
と思っていたら次の瞬間、目の前にスナメリが現れました。
外傷は少なく、ひどく腐敗せずに、きれいな状態で水の底に沈んでいました。
尾ビレの付け根にロープを結んで船の近くまで連れて泳いでいき、最後は4人で一気に引き揚げました。
無事に引き揚げてほっとしたのもつかの間、すぐに水族館に戻り、解剖に移ります。
外見のチェックの後、体の各部を計測します。
体長は195センチとスナメリの中では大きなオスでした。
(ちなみにスナメリはオスの方がメスよりも大きくなります。)
歯はすり減っており、年老いた個体であることが推測されます。
最大の関心は胃の中身です。
冬の名古屋港にはスナメリがたくさんいるのですが、何を食べているかは実はよくわかっていません。
死んでしまったスナメリの胃の中を見ることで、何を食べていたかを知ることができるのです。
胃の中を見ると…生物の欠片が数個入っていましたが、残念ながらはっきりと何かわかるものは入っていませんでした。
かなり痩せていたので、死ぬ前はあまり餌を食べることができなくなっていたのでしょうか。
難しいかもしれませんが、生物の欠片から何の生き物なのかを調べたいと思います。
今回のスナメリがなぜ死んでしまったかは解剖からはわかりませんでした。
しかし、大人のオスのスナメリが名古屋港に来ていることが分かりましたし、わずかな胃の内容物から何を食べていたかも分かるかもしれません。
はじめにも書きましたが、野生の生き物の調査では情報を入手する機会がとても限られています。
今後も貴重な機会をひとつひとつ大切にし、名古屋港のスナメリの情報を集めていきます。