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スタッフコラム
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スタッフコラム COLUMN

2025.03.30 シャチ

どっちが明るいでしょう??

突然ですが問題です!
この3枚の画像、中央のグレーが明るい方はそれぞれどちらでしょうか?
考えずに一瞬で答えてください。

正解は…全部右の方が明るいです!
何問正解できましたか?

この問題では一番下のグレー背景の問題が一番分かりやすかったかと思います。
なぜかと言うと錯覚が起きて、コントラストが強調されているからなんです。
今回、シャチでもこの錯覚が起きるかを2019年から2021年に行った実験で確かめ、論文で発表しました!

同じ問題に取り組んでいるシャチ

英題:Luminance contrast perception in killer whales (Orcinus orca)

邦題:「シャチにおけるコントラストの知覚」

要約:今回の研究では、シャチが視覚を用いてどのようにコントラストを知覚しているのかについて調べました。コントラストとは「物体とその背景の明るさの差」のことで、コントラストが大きくなるほど物体を背景の中から見つけやすくなります。私たち人間はコントラストを実際よりも強調して知覚していることが知られており、これは「明るさ対比錯視」と呼ばれています。そこで、シャチにおいても「明るさ対比錯視」によるコントラストの強調が起きているのかを調べるために、リンとアースの2頭に対して明るさを識別させる課題を行いました。水中の窓の前に置かれた2枚のモニターの中央に色のついた四角形が表示され、シャチは二つの四角形を見比べて、より明るいと思う方を顔の先端でタッチするようにトレーニングを行いました。その結果シャチにおいても、私たちと同じようにコントラストを強調して知覚する「明るさ対比錯視」が生じていることが分かりました。このことから、水中に棲むシャチにとっても、コントラストは視覚を用いた物体認識に役立っている可能性があります。

Ayumu Santa, Koji Kanda, Yohei Fukumoto, Yuki Oshima, Tomoya Kako, Momoko Miyajima, Ikuma Adachi. 2025. Luminance contrast perception in killer whales (Orcinus orca). Animals. 15(6): 793.

論文はどなたでも読むことができます。英語ですが、興味のある方はぜひご覧ください。

水中で暮らしているシャチがどのように世界を見て、認識しているのか?
野生では調べることの難しい疑問ですが、水族館でトレーニングを行うことでこの答えに少しずつ近づくことができます。
またこの実験はシャチたちにとってはよい刺激になっているようで、特にアースは真面目に取り組んでいます。(リンはちょっと集中力が足りないところがありますが…。)

実験は主に午前中に展示プールの奥にある窓で行っています。
現在アースは新たな課題に取り組んでおり、奥の窓で課題に取り組んでいるので、その時間はお客様からはシャチの背中側しか見えなくなってしまうのですが、頑張っているんだなと温かい目で見守ってください。

課題に取り組んでいて、展示プール側からは背中しか見えない

これまでの認知研究に関するコラムはこちらから↓
どっちだ~?
プールの奥には…?
日々の努力の積み重ね

(名古屋港水族館では、京都大学ヒト行動進化研究センターと共同でシャチの比較認知科学研究を行っています。)

飼育展示2課 加古智哉