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スタッフコラム COLUMN

2026.10.04 ペンギン

ジェンツーペンギンが4種に!?

名古屋港水族館でも飼育しているジェンツーペンギン。

頭の白いリボンのような模様とオレンジ色のくちばしが特徴のペンギンですが、2026年、ジェンツーペンギンを4つの種に分けることを提案する研究が発表されました。

「今まで1種だったのに、いきなり4種に増えた?」

と思われるかもしれません。

今回は、2026年に発表された新しい分類を紹介し、さらに分類が変わることにどのような意味があるのかを紹介したいと思います。

なお、今回は分類学が中心となる、少々マニアックな内容です。しかも、かなり長いです!

興味のある方は、ぜひ最後までお付き合いください。

 

 

これまでは「キタ」と「ミナミ」の2亜種

これまでジェンツーペンギンは、一般に2つの亜種に分けられてきました。この2亜種の区分は、1970年の形態学的な研究によって整理されたものです。

大まかにいうと、体の大きさなどの形態的な特徴から、南極半島とその周辺の島々に生息するジェンツーペンギンをミナミジェンツーペンギン Pygoscelis papua ellsworthi、それより北に生息するジェンツーペンギンをキタジェンツーペンギン Pygoscelis papua papuaとしていました。


本図は地理院地図(国土地理院)を加工して作成

 

ただし、ジェンツーペンギンが昔からずっと、この2亜種だけに分けられていたわけではありません。

 

ほんとに2亜種なの?

実は、ジェンツーペンギンの分類については昔からさまざまな考え方がありました。

今から約100年前の1927年には、Pygoscelis papua taeniata という別の亜種が提案されています。その後、先に紹介した1970年の研究などから「キタ」と「ミナミ」の2亜種にまとめる分類が広く使われるようになり、taeniata という名前は使われなくなっていきました。「taeniata」という名前、今回紹介する2026年の研究で再び登場しますので、覚えておいてください。

また、ジェンツーペンギンは昔から地域ごとの違いが注目されていました。例えば、鳴き声です。繁殖期のディスプレイで使われる鳴き声はペンギンにとって重要なコミュニケーション手段ですが、1982年には、鳴き声の特徴が「キタ」と「ミナミ」という南北の区分とは一致せず、むしろ東西に分かれるような地域的なまとまりがあることが報告されました。

さらに、ジェンツーペンギンは同じ繁殖地を利用する傾向が強く、繁殖地間の移動も限られています。さきほどの地図を再確認してみてください。同じキタジェンツーに分類されてきたフォークランド諸島とケルゲレン諸島は、非常に離れた場所にあります。

これほど離れた場所に生息し、しかも繁殖地間をあまり行き来しないペンギンたちを、本当に同じ亜種として扱ってよいのでしょうか?

このように、DNAを詳しく調べられるようになる以前から、ジェンツーペンギンには単純な「キタ」と「ミナミ」だけでは説明しきれない地域差があることが知られていました。

 

そして2026年、4種に分ける分類が提案された

2026年に様々な地域のジェンツーペンギン個体群について、DNA、体の形態、生息環境などを総合的に調べた研究が発表されました。その研究結果によると、ジェンツーペンギンには大きく分けて4つの異なる系統があることが示され、これらを4つの独立した種として扱うことが提案されました。

本図は地理院地図(国土地理院)を加工して作成

 

図を見ると、これまで一つの「ジェンツーペンギン」とされていたものが、

Pygoscelis papua
Pygoscelis ellsworthi
Pygoscelis taeniata
Pygoscelis kerguelensis

の4種に分けられています。

 

さらに、Pygoscelis ellsworthi の中では、サウスジョージアの個体群を Pygoscelis ellsworthi poncetii、南極側の個体群を Pygoscelis ellsworthi ellsworthi という別の亜種として扱うことが提案されています。

そして、ここで注目してほしいのがクロゼ諸島のPygoscelis taeniata です。

約100年前に亜種として提案され、その後使われなくなった亜種の名前が、2026年の分類では Pygoscelis taeniata という種名として復活しているのです。

ただし、約100年前の taeniata と2026年の Pygoscelis taeniata では、含める地域が同じではありませんのでご注意ください。

一方、ケルゲレン諸島などの個体群には、新たに Pygoscelis kerguelensis という種名が付けられました。

なお、これは2026年に発表された研究による新しい分類の提案です。研究が発表されたからといって、世界中の分類や呼び名がすぐに4種へ切り替わるわけではありません。

今後、この分類がどのように検証され、受け入れられていくのかにも注目していく必要があります。

 

4種に分けることは、保全にも関係する

では、分類が変わることにどんな意味があるのでしょうか。

名前が変わるだけのようにも思えますが、実は野生動物の保全を考えるうえでも分類は重要です。

現在、ジェンツーペンギンは一つの種 Pygoscelis papua としてIUCNレッドリストでLC(Least Concern、低懸念)と評価されています。

ジェンツーペンギン全体の個体数は近年増加傾向にありますが、地域ごとに状況はことなります。特に南極半島などの個体群の数は大きく増加している一方で、個体数の減少が確認されている地域もあります。

つまり、これまでのように「ジェンツーペンギン」1種として評価すると、全体では増えているように見えても、地域ごとの違いや、一部の集団が抱えているリスクが見えにくくなる可能性があります。

分類を詳しく調べることは、「何という名前で呼ぶのか」を決めるだけではありません。

守るべき多様性を、どのような単位で捉えるのか。それを考えることにもつながっているのです。

 

では、日本で飼育しているジェンツーペンギンは?(次回予告)

ここまで、野生のジェンツーペンギンの分類について見てきました。

でも、この話は野生のジェンツーペンギンだけのものではありません。

日本の動物園・水族館でも、さまざまな地域に由来するジェンツーペンギンが飼育されています。国内では、従来の「キタ」と「ミナミ」の区分をもとに、それぞれを区別して繁殖管理してきました。国内では、亜種を区別して繁殖管理されていますが、その区分は1970年に整理された従来の「キタ」と「ミナミ」の2亜種をもとにしています。

今回は2026年に発表された最新の研究を紹介しましたが、実はここ10年ほどの遺伝学的な研究によって、ジェンツーペンギンには新しい分類が何度も提案されてきました。

 

少し長くなってきてしまったので今回はここまで。

次回は、日本で飼育されているジェンツーペンギンに目を向けて、国内でどのような研究が行われてきたのか、そして、いち飼育係として次々と出てくる新しい研究をどのように見てきたのかを振り返ってみたいと思います。

今回もかなりマニアックな内容でしたが、次回はさらにマニアックです!
つづく。

飼育展示第3課 材津陽介