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2026.10.09 ペンギン

ジェンツーペンギンが4種に!? その2

前回、ジェンツーペンギンを4つの種に分けるという、2026年に発表された新しい研究を紹介しました。

【前回のコラム】2026.10.04 ジェンツーペンギンが4種に!?

ここでみなさん疑問に思ったのではないでしょうか?
「日本の動物園・水族館で飼育しているジェンツーペンギンは、いったいどれなの?」

今回は、そんな日本で飼育されているジェンツーペンギンのお話です。
前回もかなりマニアックな内容でしたが、今回はさらにマニアックです!
日本で飼育しているジェンツーペンギンは?

日本のジェンツーペンギンは主に以下の2つの地域の個体群に由来しています。

本図は地理院地図(国土地理院)を加工して作成

 

前回紹介したように、ジェンツーペンギンは長い間、「キタ」と「ミナミ」の2亜種に分けられてきました。日本の飼育個体群も、この「キタ」と「ミナミ」の区分をもとに繁殖管理が行われてきました。

サウスジョージア → キタ
サウスシェトランド諸島 → ミナミ

みなさんにはすでに2026年の最新の研究結果を紹介していますが、この2地域の関係は、この10年ほどの研究によって何度も見直されてきました。
今回は当時を振り返りながら、いち飼育担当として、新しい研究が発表されるたびに何を考えてきたのかを紹介していきます。
2016年――「キタ」と「ミナミ」の関係を見直す?

2016年、野生のジェンツーペンギンのDNAを調べた研究が発表されました。
その中で当時、飼育担当として特に気になったのが、サウスジョージアの個体群の位置づけでした。
日本では、それまでサウスジョージア由来を「キタ」、サウスシェトランド由来を「ミナミ」として、それぞれ別の個体群として繁殖管理を行ってきました。

ところが、この研究では、サウスジョージアの個体群にも遺伝的な特徴が認められる一方で、従来「ミナミ」とされてきたサウスシェトランドの個体群と近い関係にあることが示されました。
「それなら、日本で別々に管理しているサウスジョージア由来とサウスシェトランド由来の個体は、実際にはどのくらい違うのだろう?」
もし両者を一つの大きな個体群として繁殖管理できるのであれば、それぞれを小さな個体群として維持するよりも繁殖相手の選択肢が広がり、遺伝的多様性をより長く維持できる可能性があります。

2016年の研究を読んだ当時、私はそんな可能性に注目しました。
もちろん、野生個体を対象とした研究結果だけで、長い間別々に繁殖されてきた国内の飼育個体群を一緒にしてよいと判断することはできません。
では、日本で飼育・繁殖されてきたサウスジョージア由来とサウスシェトランド由来の個体は、実際にはどのような遺伝的特徴を持っているのでしょうか。

そこで2018年、国内の飼育園館と岐阜大学の協力のもと、飼育下のジェンツーペンギンを調べる研究が始まりました。
この研究成果が発表されるのは2022年なのですが、その間にも、ジェンツーペンギンの分類に関する新しい研究が発表されます。
2020年――今度は別の種!?

2020年、今度はDNAの情報に体の大きさなどの特徴も加えて、ジェンツーペンギンの分類を検討した研究が発表されました。その結果、ジェンツーペンギンを4つの種に分けることが提案されました。
今回注目している2地域を見ると、2020年の研究では、

サウスジョージア → Pygoscelis poncetii
サウスシェトランド諸島 → Pygoscelis ellsworthi

とされ、それぞれ別の種とすることが提案されました。
2016年の研究を受けて、
「この2つを一つの大きな個体群として繁殖管理できるかもしれない」
と考え、私たちはその可能性を探るために国内飼育個体を調べていたところです。

それが今度は、
「サウスジョージアとサウスシェトランドは、別の種ではないか」
という研究が出てきたのです。
数年前には「両者が近い関係にあることを示す研究」という研究があり、それを受けて国内個体を調べ始めたら、今度は「別種」という研究が出てくる。
なかなか驚きの展開でした。

ところで
「あれ? 4種って前回紹介した2026年の研究と同じでは?」
と思った方もいるかもしれません。

【前回のコラム】2026.10.04 ジェンツーペンギンが4種に!?

でも、ここは要注意です。
2020年に提案された「4種」と、前回紹介した2026年の「4種」は同じではありません。
一方、前回紹介した2026年の研究では、サウスジョージアとサウスシェトランドは、同じ種 Pygoscelis ellsworthi の別亜種とされています。
つまり、この2地域に注目すると、

2020年 → 別の種
2026年 → 同じ種の別亜種

なのです。
2022年――日本で飼育している個体では?

2018年から進めてきた国内飼育個体の研究は、2022年に論文として発表されました。
この研究では、日本で飼育されているジェンツーペンギンについて、それぞれの由来ごとに遺伝的な特徴を調べました。
その結果、国内で飼育されている「キタ」としていたサウスジョージア由来と「ミナミ」としていたサウスシェトランド由来のグループの間にも、遺伝的な違いが確認されました。
2016年の研究を読んだときには、この2つを一つの大きな個体群として繁殖管理できる可能性があるのではないか、と考えていました。

しかし、その後2020年には両者を別種とする研究が発表され、さらに私たちが国内飼育個体を調べた研究でも、両者の遺伝的な違いが確認されました。
こうした結果を踏まえ、サウスジョージア由来とサウスシェトランド由来の個体は一つの個体群にはせず、これまでどおり分けて繁殖管理していく方針としました。

ここでも大切なのは、
「遺伝的に違うことが確認されたから、この2つは別種である」
という研究ではないということです。

私たちが調べたのは、日本で飼育されている個体群の遺伝的な特徴です。
野生のジェンツーペンギンを「何種、何亜種に分類するのか」ということと、日本で飼育しているジェンツーペンギンを「どのような単位で繁殖管理していくのか」ということは、深く関係していますが、まったく同じ問題ではありません。
2026年――今度は同じ種に

そして、前回紹介した2026年の研究です。
今回注目している2地域を見ると、

サウスジョージア → Pygoscelis ellsworthi poncetii
サウスシェトランド諸島 → Pygoscelis ellsworthi ellsworthi

とすることが提案されました。
つまり、2020年にはそれぞれ別の種とされたサウスジョージアとサウスシェトランドが、2026年には同じ Pygoscelis ellsworthi という種の中の別亜種として整理されたのです。
2016年には「近い関係」、2020年には「別種」、そして2026年には「同じ種の別亜種」。
この10年ほどの間にも、研究が増えるたびに見える景色が変わってきました。
では、日本での繁殖管理はどうする?

ここまで長々とジェンツーペンギンの分類についてお話ししてきましたが、
「結局、日本での繁殖管理はどうなるの?」
と思われるかもしれません。

結論からいうと、今のところ大きく変わるわけではありません。
2026年の研究では、サウスジョージアとサウスシェトランドは同じ Pygoscelis ellsworthi という種の別亜種とすることが提案されました。

しかし、2022年の私たちの研究では、国内で飼育されている両グループの間にも遺伝的な違いが確認されています。
そのため、今回新しい分類が提案されたからといって、すぐに両者を一緒にして繁殖させるということにはなりません。現在のところ、これまでと同じように、それぞれの由来を区別した繁殖管理を続けていくことになると思います。
名前は変わるの?

こちらも、すぐに変わるわけではありません。

今回紹介した2026年の研究は、新しい分類と学名を提案したものです。
研究論文で新しい分類が提案されたからといって、その日から世界中の動物園・水族館で名前が一斉に変わるわけではありません。今後、この分類がどのように受け入れられていくのかを見ていく必要があります。
そして、もし将来この分類が広く採用され、それにともなって和名が整理されることになれば、動物園・水族館でみなさんに紹介する名前も変わるかもしれません。

つまり現時点では、

繁殖管理 → 今のところ変わらない
名前 → 今後変わるかもしれないし、変わらないかもしれない

というところです。
これだけ長くお話ししてきて、最後が「まだ分かりません」なのですが、それも分類研究のおもしろいところなのかもしれません。
研究はこれからも進んでいきます。
今回のように新しい研究によって分類の考え方が変わることもあれば、今はまだ分かっていない地域ごとの違いが、将来明らかになることもあるでしょう。
だからこそ、どこから来た個体なのか、どの個体から生まれたのかという由来や血統を記録し、新しい研究から得られた情報を取り入れながら、

「私たちは何を、どのような形で未来に残していくのか」

を考え続ける。
それも、動物園・水族館が行う「種の保存」の大切な仕事の一つだと思います。

今回もかなりマニアックな話になりました。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
もう少しマニアックな話――DNA解析はどう違う?

ここまで読むと、
「研究によって言っていることが違うじゃないか」
と思う方もいるかもしれません。

では、どうしてこのような違いが出てくるのでしょうか。
一言で「DNAを調べる」といっても、すべての研究で同じ場所を、同じ方法で調べているわけではありません。
DNAは、とても長い「本」に例えられることがあります。

2016年の研究では、マイクロサテライトと呼ばれるDNA上の特定の場所や、母親から受け継がれるミトコンドリアDNAなどが調べられました。
2020年の研究では、ゲノム上の約1万か所のSNPと呼ばれる違いが比較されました。
そして2026年の研究では、全ゲノムの情報を使った解析が行われました。

かなり大ざっぱに表現すると、
DNAという長い本の一部の特徴的な場所を調べる
↓
本の中の約1万か所を比べる
↓
本全体から非常に多くの情報を取り出して比べる
というように、調べることのできる情報が大きく増えてきたのです。
もちろん、「調べるDNAの量が多ければ、それだけで正しい答えになる」という単純な話ではありません。

細かく見れば、一個体同士ですらDNAで区別することができます。しかし、どの地域のどの個体を調べたのか、何を明らかにしようとした研究なのか、DNA以外の形態や生息環境をどのように評価したのか、そして「どこまで違えば別の種と考えるのか」といったことも関係します。こんなコラムを書いておいてなんですが、正直言うとわたしもこのあたりはよくわかっていません。

この先、ジェンツーペンギンの分類がどうなっていくのかは、まだ分かりません。もしかすると、数年後にはまた違う研究をみなさんに紹介しているかもしれません。

そのときには、「また変わったの?」と思いながら、一緒に続きを見ていただければと思います。

飼育展示第三課 材津陽介